地球温暖化対策のため、人にも環境にも配慮した建物が必要とされています。
ビルの省エネについても国内外でさまざまな技術が生まれており、日本では「ZEB」の導入が進みつつあります。
それではZEB(ゼブ)とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
海外の取り組みを中心に、省エネ技術などについても見ていきましょう。
ZEBとは?
最初に「ZEB(ゼブ)」の名称についてですが、これは「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」を省略したものです。
事務所やホテル、病院、店舗などビルの中では人が活動しているため、冷暖房や室内での電気機器の利用などでエネルギーが消費されています。これを完全にゼロにすることはできません。
しかし可能な限り省エネ設計にし、太陽光などでエネルギーを創り出す設備を備え付けることで、ビルの中で消費されるエネルギーと創り出すエネルギーの相殺を目指すことはできます。
つまり、正味で消費エネルギーをゼロ(=Net Zero Energy)にする考え方であり、これを「ZEB」と呼びます(図1)。
図1 ZEBの概念
(出所:「ZEBとは?」環境省)
新築だけでなく、既存の建物も改修工事によってZEB化することが可能です。
ビルで使う燃料費を削減できるだけでなく、災害時のエネルギー不足時にもビル自身にエネルギーを生み出す機能があるため、BCP(事業継続計画)の一環になるなどのメリットがあり、ZEB化に関心を持つ企業やビルオーナーが増えています。
海外で進む建物の省エネ化
海外でも、ビルや住宅の省エネについて、さまざまな技術が開発されています。民間団体が公的基準よりはるかに高い省エネ基準を設けており、ビルオーナーなどが導入する事例があります。
ドイツ発祥の「パッシブハウス」
そのひとつが、ドイツの「パッシブハウス研究所」が考案した「パッシブハウス基準」という省エネに関する規定です。
「積極的な(=active)冷暖房を必要としない」という意味で「passive(消極的な)」という名前がつけられており、世界で最も厳しい省エネ基準とも言われています。
分厚い断熱材や三重サッシなどを取り入れるほか、建物内で消費されるエネルギーの内訳を分析し、熱回収を可能にする換気システム、高度な熱交換システムなどを導入し、これまでに学校や病院、オフィスビルへの応用実績があります。
学校への導入では、従来に比べ面積あたりのエネルギー消費を90%削減しています(図2、3)。
図2、3 パッシブハウス基準の校舎とエネルギー需要の変化(フランクフルト市)
(出所:「Riedberg Passive House School, Frankfurt, Germany」passipedia)
パッシブハウスの技術は欧米のみならず中国にも輸出されています。
中国では、パッシブハウス基準を満たした巨大マンション群が建設されています(図4)。
図4 中国に建設されたパッシブハウス住宅群
(出所:「China will energetisch hoch hinaus」パッシブハウス研究所プレスリリース)
「アリ塚」から学んだ省エネビル
アフリカ南部のジンバブエに建設された商業複合施設「イーストゲートセンター」は、シロアリのアリ塚が、自然の気流を利用して外気温の変化から内部の環境を守っている様子を参考にして省エネをはかっています(図5)。
図5 「イーストゲートセンター」内部とアリ塚
(出所:「Beyond biomimicry: What termites can tell us about realizing the living building」Scott Turner)
熱容量の高い建材を使用し、外気温の変化から得る熱を蓄えたり放出したりするだけでなく、温かい日中の蓄熱と涼しい夜間の熱放出を強化するため、ビルに装備しているファンをタイミングよく駆動するというシステムです。
エネルギーを消費して冷暖房を使用するのではなく、むしろ外部の気温変化を利用し、空調による消費エネルギーを最低限に抑えているのです。
日本のZEBでは消費エネルギーを上回る創エネも
さて、日本のZEBは省エネ性能によって下のように分類されています(図6)。
図6 ZEBの種類
(出所:「ZEBとは?」環境省)
正味でのエネルギー消費をどのくらい削減できるかによって、「ZEB Ready」「Nearly ZEB」「ZEB」となっています。
ただ、中には、省エネを上回る創エネを可能にしたビルもあります。
大阪市の研修施設兼ショールームである「ワッツ・ラボ・オオサカ」では、高性能の断熱材、高効率のヒートポンプなどによって省エネをはかり、同時に太陽光パネルを利用してエネルギーを作り出すことによって、正味でエネルギー消費量を108%低減させる設計を実現しています*1。
つまり、消費エネルギーよりも創出するエネルギーの方が高い建物ということになります。
使うほどにエコな建物を目指して
オフィスビルや学校、病院といった施設では、その中で人が活動している以上、消費エネルギーを完全にゼロにすることはできません。
しかし、太陽光をはじめとした自然エネルギーの利用技術は年々進化しています。
日本政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を掲げ、2030年度までには新築建築物の平均で「ZEB Ready(省エネによってエネルギー消費を50%以下まで削減する建築物)」相当となることを目指す」ともしています*2。
新規建築物に限らず、既存の建築物も改修によってZEB化することが可能です。
日本のエネルギー自給率は低く、海外の情勢によって燃料価格の高騰でエネルギー料金は簡単に左右されてしまいます。現在では電気やガス料金が高騰しています。そのような中でも、可能な限り自前でエネルギーを補える建物は持続可能性が高くなります。
また、省エネなどESGに取り組む企業への投資家からの注目は高くなっています。
環境問題と向き合いながら企業活動を続けていく姿勢が求められる中、ZEBはそのひとつのソリューションにもなり得るのです。
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「ZEBリーディング・オーナー登録表」環境共創イニシアチブ
https://www.mitsubishielectric.co.jp/zeb/cases/pdf/sanko_zeb2019l_00010_p01.pdf
*2
「ZEBとは?」環境省
https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/02.html