• 更新日:2023.05.30
  • 作成日:2022.07.21

働き方改革だけではない 「シェアオフィス」が社会にもたらす大きな可能性とは

「働き方改革」や新型コロナウイルスの流行をきっかけに、シェアオフィス、レンタルオフィスでリモートワークをする人が増え、シェアオフィスをはじめとする「フレキシブルオフィス」は着実に市場規模を伸ばしています。

実はフレキシブルオフィスの利用には、社員の働き方を変えるだけでなく、様々なメリットがあります。

環境対策から町おこしまで、大きな社会的意義があるこのシェアオフィス。
その具体例とメリットを見ていきましょう。

フレキシブルオフィスの市場規模

日本能率協会総合研究所(JMAR)によると、フレキシブルオフィスの市場規模は今後も拡大していくと予測されています(図1)。

フレキシブルオフィスの市場規模・予測

図1 フレキシブルオフィスの市場規模・予測
(出所:「フレキシブルオフィス市場2026年に2,300億円規模に」日本能率協会総合研究所)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000035568.html

従来からある「働き方改革」の動きに加え、2020年には新型コロナウイルスによる外出自粛のあおりを受けたホテルや商業施設など他業種からのシェアオフィス事業参入も増加しています。

実際、大企業の間ではオフィスの床面積を大幅に削減する動きがあります*1。

また環境省の資料によると、2020年の段階でオフィス面積を現状維持とする企業が半数にのぼる一方、7.1%は「減床」、2.5%は「移転、分散予定」としています(図2)。

オフィス面積に関するアンケート調査

図2 オフィス面積に関するアンケート調査
(出所:「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」環境省)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/hearing_dai2/siryou2.pdf p11

オフィス縮小の動きが拡大すれば、今後もフレキシブルオフィスに対する一定以上の需要が続くことでしょう。

期間や面積に関して柔軟な契約ができるという特徴があるほか、遠隔地からも優秀な人材を確保できる、BCP(事業継続計画)の一環にもなり得るなどのメリットが注目されています。

フレキシブルオフィスの種類

さて、フレキシブルオフィスと呼ばれる仕事場所には、いくつかの種類があります。おおむね以下のように分類されます。

  • レンタルオフィス=月単位などの一定期間、特定拠点の特定個室など決められた場所を占有する形でオフィススペースを貸し出している
  • シェアオフィス=オフィススペースを複数社・複数人で共有して利用する
  • コワーキングスペース=複数社・複数人で共有して利用できるオフィススペースを提供するだけでなく、利用者同士が業種をこえて交流できる場やイベントを積極的に設けている施設

特に近年注目されているのが「コワーキングスペース」です。
異なる企業や業種の人が同じ場所で働くことで、業界を問わない交流が生まれ、新たなビジネスチャンスを見出せるのではないかと期待されているのです。

フレキシブルオフィスのもうひとつの効能

そして、実はシェアオフィスをはじめとするフレキシブルオフィスには、環境対策も期待されています。

IEA(国際エネルギー機関)が2020年に、テレワークと二酸化炭素排出量の関係を試算しています。世界中の、自宅で仕事ができる人が週1日の在宅勤務をした場合にどれだけ二酸化炭素排出量を削減できるかというものです(図3)。

テレワークと二酸化炭素排出量

図3 テレワークと二酸化炭素排出量
(出所:「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」環境省)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/hearing_dai2/siryou2.pdf p10

テレワークによって、家庭などでの電力消費は増えますが、個人の移動が大きく減少することによって正味で年間に約2,420万トンの二酸化炭素排出量を削減できるというものです。これは、ロンドンの年間の二酸化炭素排出量に匹敵する量です*2。

テレワークやリモートワークによる移動人数の削減や距離の短縮は、じつは温暖化対策への貢献になるのです。

育児世代の活躍支援、多様な人材の確保も

ところで国内には、育児世代の活躍を支援するシェアオフィスが登場しています。

ひとつは北九州市のJR小倉駅すぐそばに開業したシェアオフィス・コワーキングスペースで、託児施設を併設することで子育て中の女性の就業場所を提供しています*3。

同じフロアの中で、ワークスペースにキッズスペースを隣接させているほか、交流や学びの場所としてのコワーキングスペースも併設しています。

子育て中の女性が働きやすい環境を提供するほか、妊娠・出産を機に離職した女性の雇用創出・拡大も目的としています。
このように子どもを連れて利用できるシェアオフィス・コワーキングスペースは全国でも展開されています。

また、コロナをきっかけに、国内の人の動きは変化しました。
総務省が発表した2021年の住民基本台帳人口移動報告によると、ある地域から転入した人から転出した人の数を差し引いた「転入超過」はコロナを機に大きく減少しています(図4)。

3大都市圏への転入超過の推移

図4 3大都市圏への転入超過の推移
(出所:「住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果」総務省)

http://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/youyaku/index.html

東京23区では、区外や他県への転出者から転入者を差し引くと1万4828人の「転出超過」になりました*4。

このように人の動きが大きく変わる中、出社を前提としない働き方を取り入れれば、例えば子育てや介護が理由で地方を離れにくい世代の雇用拡大が見込めます。
少子高齢化で人材不足が今後加速する環境のなかで、企業にとっては人材確保のひとつの手段になり得ることでしょう。

働く場所の変化で地方創生も

なお、空き家や団地をシェアオフィスに改修している事例もあります*5。空き家、空き店舗の再生とともに、地域の交流人口の増加も期待されます。

地方でのテレワーク拠点とし国内でいち早く設備を整え、IT従事者を中心に移住者を呼び込んだことで知られる徳島県神山町がサテライトオフィス誘致に乗り出したのは、農林業だけに頼らない自治体の持続可能性を目指したのがきっかけです。

現在では人の移住を機にサービス業が構築され、主要産業である農業のテコ入れに繋がるという循環が生まれています(図5)。

徳島県神山町の移住者誘致経済モデル

図5 徳島県神山町の移住者誘致経済モデル
(出所:「働き方の変化(テレワーク)を活用した地方創生」総務省資料

https://www.soumu.go.jp/main_content/000324372.pdf p16

なお、神山町は2012年に、町としては史上初となる社会動体人口増加を達成しました*6


働き方改革だけでなく、環境対策やさまざまな人材の活躍、地方創生と、「働く場所」の自由さが生み出す効能は多岐にわたっています。社会を変える新たな可能性を秘めているとも言えるでしょう。

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*1 、2
「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」環境省
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/datsutanso/hearing_dai2/siryou2.pdf p11、p10

*3
「活力ある地域社会の促進を目的として、5G・託児施設を有するコワーキングスペースの整備が始まります!」北九州市
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000948721.pdf

*4
「住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果」総務省
https://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/youyaku/index.html

*5
「地域を元気にするテレワークセンター事例集」国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001267281.pdf p17

*6
「働き方の変化(テレワーク)を活用した地方創生」総務省資料
https://www.soumu.go.jp/main_content/000324372.pdf p3

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