• 更新日:2024.09.06
  • 作成日:2024.06.10

ビル管法(ビル管理法)とは?ビル所有者が守るべき法律上のルールを弁護士が解説

ビル管法※では、ビルの所有者・管理者が遵守すべきルールが定められています。
※正式名称:建築物における衛生的環境の確保に関する法律

ビルオーナーの方は、ビル管法のルールを踏まえて、適切にビルの管理を行ってください。
今回は、ビルオーナーが知っておくべきビル管法のルールを解説します。

ビル管法(ビル管理法)とは

「ビル管法」とは、多数の利用者がいる建築物の維持管理について、衛生的な環境を確保するためのルールを定めた法律です。

ビルの所有者や管理者などに対して、衛生管理等に関するさまざまな義務が課されています。

ビル管法(ビル管理法)が適用される「特定建築物」とは

ビル管法の適用を受けるのは「特定建築物」です。

特定建築物には、以下の建築物が該当します(同法2条、同法施行令1条)。

(1) 以下の用途に供される部分の延べ面積が3,000㎡以上の建築物

  • 興行場
  • 百貨店
  • 集会場
  • 図書館
  • 博物館
  • 美術館
  • 遊技場
  • 店舗
  • 事務所
  • (2)に挙げたもの以外の学校
  • 旅館


(2) 専ら以下の用途に供される建築物のうち、延べ面積が8,000㎡以上のもの

  • 幼稚園
  • 小学校
  • 中学校
  • 義務教育学校
  • 高等学校
  • 中等教育学校
  • 特別支援学校
  • 大学
  • 高等専門学校
  • 幼保連携型認定こども園

オフィスや店舗が入居するビルのうち、延べ面積が3,000㎡以上のものは「特定建築物」に該当し、ビル管法の適用を受けます。

ビル管法(ビル管理法)を遵守すべき者の範囲

ビル管法に基づく義務は、「特定建築物維持管理権原者」が負う義務と、「特定建築物所有者等」が負う義務の2つに大別されます。いずれかに該当する者は、ビル管法の対応する規定を遵守しなければなりません。

特定建築物維持管理権原者

「特定建築物維持管理権原者」とは、特定建築物の所有者・占有者その他の者で、当該特定建築物の維持管理について権原を有するものです(同法4条1項)。

原則的には、特定建築物の所有者が特定建築物維持管理権原者に該当します。ただし、ビルの維持管理に必要な一切の権限を第三者に与えている場合には、当該第三者が特定建築物維持管理権原者に該当します。
なお、ビルの所有者から清掃業務を受託した清掃業者など、部分的に維持管理に関する業務を担当しているに過ぎない者は、特定建築物維持管理権原者に該当しません。

特定建築物所有者等

「特定建築物所有者等」に該当するのは、原則として特定建築物の所有者です(同法5条1項)。

ただし、所有者以外に当該特定建築物の全部の管理について権原を有する者がいる場合は、(所有者ではなく)その者が特定建築物所有者等に該当します。

特定建築物維持管理権原者と特定建築物所有者等の違い

「特定建築物維持管理権原者」は、実質的に見て、適切に特定建築物を維持管理すべき立場にある者を指します。
原則的には所有者や一棟借りの賃借人などが該当しますが、ビルの維持管理業務を全面的に受託している管理業者も、特定建築物維持管理権原者に該当します。
管理業者が特定建築物維持管理権原者に該当する場合、所有者や一棟借りの賃借人は特定建築物維持管理権原者に該当しなくなります。

これに対して「特定建築物所有者等」は、特定建築物の滅失・毀損、価値の維持、利用・改良のすべてを行う権原を有する者を指します。
こちらも原則的には所有者や一棟借りの賃借人などが該当しますが、単にビルの維持管理業務を受託しているに過ぎない管理業者は、(管理がビル全体に及ぶ場合でも)特定建築物所有者等には該当しません。

このように、「特定建築物維持管理権原者」と「特定建築物所有者等」は重なる場合も多い一方で、異なる主体となる場合もあります。

特定建築物管理権原者が負う義務

特定建築物維持管理権原者は、ビル管法に基づき、主に以下の義務を負います。

  • 衛生管理基準に従った維持管理義務
  • 建築物環境衛生管理技術者の意見を尊重する義務
  • 都道府県知事の改善命令等に従う義務

衛生管理基準に従った維持管理義務

特定建築物維持管理権原者は、「建築物環境衛生管理基準」に従って特定建築物の維持管理をしなければなりません(ビル管法4条1項、同法施行令2条)。

建築物環境衛生管理基準の内容は、厚生労働省のウェブサイト*1にまとめられています。

建築物環境衛生管理技術者の意見を尊重する義務

特定建築物所有者等が選任する建築物環境衛生管理技術者は、建築物環境衛生管理技術者に対して、特定建築物の維持管理に関する意見を述べることが認められています。

建築物環境衛生管理技術者から意見を述べられた場合、特定建築物維持管理権原者は、その意見を尊重しなければなりません(ビル管法6条2項)。

都道府県知事の改善命令等に従う義務

都道府県知事は、以下の要件を満たす場合において、特定建築物維持管理権原者に対し、維持管理の方法などに関する改善命令等を行うことができます(ビル管法12条)。

(1) 特定建築物所有者等に対する報告要求や、特定建築物に対する立ち入り検査等が行われたこと
(2) 特定建築物の維持管理が、建築物環境衛生管理基準に従って行われていないこと
(3) 特定建築物内における人の健康を損ない、または損なうおそれのある事態など、環境衛生上著しく不適当な事態が存すると認めること

都道府県知事の改善命令等を受けた場合、特定建築物維持管理権原者はそれに従って是正措置等を講じなければなりません。

特定建築物所有者等が負う義務

特定建築物所有者等は、ビル管法に基づき、主に以下の義務を負います。

  • 特定建築物の届出義務
  • 建築物環境衛生管理技術者の選任義務
  • 帳簿書類の保存義務
  • 立入検査への対応義務

特定建築物の届出義務

特定建築物所有者等は、特定建築物の使用が開始された場合、開始日から1か月以内に所定の事項を都道府県知事に届け出なければなりません(ビル管法5条1項)。

ただし、保健所を設置する市または特別区の場合、届出先は市長または区長となります。

建築物環境衛生管理技術者の選任義務

特定建築物所有者等は、特定建築物の維持管理が環境衛生上適正に行われるように、監督業務を担う「建築物環境衛生管理技術者」を選任しなければなりません(ビル管法6条1項)。

建築物環境衛生管理技術者は、免状を有する者の中から、特定建築物ごとに選任する必要があります。また、別に特定建築物維持管理権原者がいる場合には、選任に当たって特定建築物維持管理権原者の意見を聴かなければなりません(同法施行規則5条4項)。

帳簿書類の保存義務

特定建築物所有者等は、特定建築物の維持管理に関する帳簿書類を備え、5年間保存しなければなりません(同法10条、同法施行規則20条)。

保存が義務付けられている帳簿書類は、以下のとおりです。

  • 空気環境の調整、給水および排水の管理、清掃、ねずみ等の防除の状況を記載した帳簿書類
  • 特定建築物の平面図および断面図、特定建築物の維持管理に関する設備の配置および系統を明らかにした図面
  • (1人が2以上の特定建築物の建築物環境衛生管理技術者を兼ねる場合)兼任しても業務の遂行に支障がないことの確認結果を記載した書面
  • その他、特定建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類

立入検査への対応義務

特定建築物の維持管理などを規制・監督するため、都道府県知事が必要と認める場合には、特定建築物所有者等に対する報告要求や立ち入り検査などを行うことができます(ビル管法11条、同法施行規則21条)。

都道府県知事から報告要求等を受けた場合には、特定建築物所有者等がこれに対応しなければなりません。

まとめ

オフィス・事務所などが入居するビルの所有者の方は、ビル管法の規定に沿った対応を行わなければなりません。
ビル管法に違反すると行政処分や刑事罰の対象になり得るため、ビル所有者の方は十分ご注意ください。

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この記事の著者

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

*1
厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

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