ビル管理法とは、不特定多数の人が利用するビルなどの建物を利用する人が、衛生的な環境で快適に過ごせるように管理することを義務づけている法律です。
建築物環境衛生管理技術者(通称:ビル管理技術者、以下同じ)が建物全体の管理業務計画を考案し、空気環境の調整や給水・排水の管理、清掃、ねずみの防除などの管理をしてクリーンな環境を実現します。
この記事では、ビル管理法の概要や対象となる特定建築物、検査項目、建築物環境衛生管理技術者の選任義務について、それぞれ解説をしていきます。
ビル管理法とは
ここでは、ビル管理法の基本的な事柄について、簡単に解説をしましょう。
ビルの衛生環境を向上させるのが目的
ビル管理法の正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」というものです。*1
ビル管理法の対象となる建物は、映画館などエンターテインメントを楽しむ興行場や百貨店などの大型商業施設、オフィスビル、学校、ホテルなどの特定建築物が挙げられます。なお、共同住宅や工場、病院、駅舎などは対象となりません。*2
利用者がビル内で衛生面や健康面に問題がなく、快適に過ごせるよう管理するために必要な項目が規定された、ビルの衛生環境を向上させるのが目的の法律です。
したがって、特定建築物の所有者や占有者は、「建築物環境衛生管理基準」に従って維持管理をすることが義務づけられています。
ビル管理法が一部改正(令和4年4月施行)
ビル管理法は昭和45年に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」として制定され、その後も何度か改正されました。*3
直近では令和4年4月に、ビル管理法の一部改正法が施行されています。*4
改正された内容は以下の通りです。
|
旧 |
新 |
環境基準 (一酸化炭素の含有率) |
100万分の10以下 |
100万分の6以下
|
環境基準 (低温側の基準) |
17℃ |
18℃ |
建築物環境衛生管理技術者の選任 |
一つの特定建築物に一人の選任が原則 |
2以上の特定建築物の管理技術者を兼任できる(業務遂行に支障がない場合) |
図1:参考)厚生労働省「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について」を元に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000876591.pdfまず、室内における一酸化炭素の含有率の上限値ですが、従来の10ppmから6ppmに改正されました。現在の大気中の一酸化炭素濃度の値が、法律が制定された昭和40年代の頃よりかなり改善していることが理由の一つです。
次に、温度に関して、低温側の基準も17度から18度に改正されました。
変更となった背景には、WHOが平成30年に策定したガイドラインで、低温側の室内温度を18度以上とするよう勧告したことが挙げられます。冬期の高齢者における血圧上昇に対する影響等が考慮され、1度上げることになりました。*5
最後の管理技術者の選任ですが、改正前は一つの特定建築物に一人の選任が原則で、通常、二つ以上の特定建築物の管理技術者は兼任できませんでした(※ただし、建築物を統一の基準で管理できる場合などは可能)。
しかし、改正後は業務上支障がなければ兼任できるようになり、複数の特定建築物で一人の人物が管理技術者として選任されることが可能です。
ビル管理法の対象となる建築物
ビル管理法が適用される建物は、不特定多数の人が利用する特定建築物が対象です。
床面積と用途が規定されており、以下の建物が該当します。
床面積 |
3,000平方メートル以上 |
用途 |
・興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場 ・店舗、事務所 ・旅館 ・学校教育法第1条に規定されていない学校 ・学校教育法第1条に規定する学校は8,000平方メートル以上
|
図2:出典)岡山県「特定建築物の指導について」を元に筆者作成
https://www.pref.okayama.jp/page/detail-52339.html床面積が3,000平方メートル以上(第1条に規定する学校は8,000平方メートル以上)、用途は映画館などの興行場や百貨店、美術館、学校、旅館など不特定多数の人が利用する施設が該当する建物です。
大勢の人が集まる大規模な施設のため、クリーンな環境で使用できることを目的にしています。
ここでは、ビル管理の検査項目について解説をします。
ビル管理の検査項目
不特定多数の人が利用するビルにおいては、衛生的な環境を維持することが必要です。
ビル管理の検査項目としては、以下の5つが規定されています。*6
1. 空気環境の調整
2. 給水の管理
3. 排水の管理
4. 清掃
5. ねずみの防除
令和4年4月1日以降における、それぞれの項目の検査内容について解説をしましょう。
空気環境の調整
空調設備を設置している場合の主な空気環境の基準は以下の通りです。
浮遊粉じんの量 |
0.15 mg/m3以下 |
一酸化炭素の含有率 |
100万分の6以下 |
二酸化炭素の含有率 |
100万分の1000以下 |
温度 |
18℃以上28℃以下 |
相対湿度 |
40%以上70%以下 |
図3:出典)国土交通省「建築物環境衛生管理基準について」を参考に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/空調設備機器は日頃から汚れやホコリなどを除去しておく必要があり、維持管理に努めることが必要です。項目ごとに専門の測定器を用いて空気環境の測定を行います。
給水の管理
飲料水など人が生活用水として使用する場合は、給水装置以外の給水に関する設備を設置しなければなりません。水道法第4条に基づく水質基準を満たした水を供給する必要があります。
衛生上、規定されている必要な措置の内容と回数は以下の通りです。
措置内容 |
措置回数 |
給水栓における水に含まれる遊離残留塩素の含有率を100万分の0.1以上に保持するようにすること |
7日以内ごとに1回の検査 |
貯水槽の点検など、有害物、汚水等によって水が汚染されるのを防止するため必要な措置 |
1年以内ごとに1回の清掃 |
飲料水の水質検査 |
定期的に実施 |
給水栓における水の色、濁り、臭い、味その他の状態により供給する水に異常を認めたときは、水質基準省令の表の上欄に掲げる事項のうち必要なものについて検査を行うこと |
その都度 |
飲料水に健康被害のおそれがあることを知った時の給水停止及び関係者への周知 |
直ちに |
図4:出典)国土交通省「建築物環境衛生管理基準について」を元に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/飲料水の水質検査は、検査項目が一般細菌や大腸菌などは6ヶ月ごとに1回、シアン化物イオン及び塩化シアンなどの場合は、1年ごとに1回(6月1日~9月30日)の割合で定期的に検査を行う必要があります。*7
排水の管理
排水設備の清掃を6ヶ月以内ごとに1回行うことも規定されています。*8
腐敗した食物屑や油脂、繊維屑などの汚れが排水管内部に付着し蓄積されてしまうと、次第に排水管の内部が細くなり、詰まりなどの原因になりかねないからです。
排水設備が正常に機能しないと排水不良や悪臭が発生してしまうため、定期的に汚れを取り除く必要があります。清掃をすることにより、排水管の劣化を予防することも可能です。
清掃
建物内の清掃や廃棄物の処理もきちんと行うことが重要です。
不特定多数の人が利用する特定建築物は、人によって土砂やホコリが持ち込まれ、ゴミや汚れもが溜まってしまいます。利用する人が気持ち良く利用するためには、衛生的な環境をキープしなければなりません。
そのため、掃除は日常的に行い、大掃除は目安として6ヶ月以内に1回は定期的に実施する必要があります。*9
ねずみの防除
ねずみや害虫など、人の健康を損なう恐れのある動物の発生や侵入の防止、駆除も行わなければなりません。
特にねずみの駆除に関しては、薬剤を乱用すると防除作業者や建物を利用する人の健康に悪影響を及ぼすリスクがあります。そのため、殺そ剤や殺虫剤については、薬事法上の製造販売の承認を得たものを使用することが規定されています。
措置内容 |
措置回数 |
ア)ねずみ等の発生場所、生息場所及び侵入経路並びにねずみ等による被害の状況について統一的に調査を実施すること |
6ヶ月以内ごとに1回 |
イ)アの調査結果に基づき、ねずみ等の発生を防止するため必要な措置を講ずること |
その都度 |
ウ)ねずみ等の防除のため殺そ剤又は殺虫剤を使用する場合は、薬事法の規定による承認を受けた医薬品又は医薬部外品を用いること。 |
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図5:出典)国土交通省「建築物環境衛生管理基準について」を元に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/該当施設には「建築物環境衛生管理技術者」の選任が必要
不特定多数の人が出入りするデパートや映画館などの特定建築物には、建築物環境衛生管理技術者(通称:ビル管理技術者)を選任して管理運営にあたる必要があります。
ここでは「建築物環境衛生管理技術者」の概要と、受験資格や合格率について解説をします。
建築物環境衛生管理技術者とは
特定建築物における衛生的環境を確保するために、建築物の所有者は建物の維持管理をする「建築物環境衛生管理技術者」を選任することが法律で義務付けられています。
建築物環境衛生管理技術者の主な業務は以下の通りです。
● 管理業務計画の立案
● 管理業務の指揮監督
● 建築物環境衛生管理基準に関する測定または検査結果の評価
● 環境衛生上の維持管理に必要な各種調査の実施 *10
なお、建築物環境衛生管理技術者の選任については、「専任」である必要はありません。
建築物環境衛生管理技術者を選任する場合は「置く」という定義とは異なり、所有者に雇用されている必要はありません。
そのため、選任された特定建築物に常駐していなくても良く、所有者との間に委任関係など何らかの法律上の関係があれば事足ります。*11
建築物環境衛生管理技術者の受験資格と合格率
建築物環境衛生管理技術者の試験には受験資格があり、以下の特定建築物で環境衛生上の維持管理に関する実務に2年以上従事した人が受験できます。試験日程は毎年10月の第一日曜日が多く、合格発表は約1ヶ月後、受験料は13,900円(消費税は非課税)です。*12
該当する建築物 |
維持管理に関する実務 |
ア)興行場(映画館、劇場等)、百貨店、集会場(公民館、結婚式場、市民ホール等)、図書館、博物館、美術館、 遊技場(ボーリング場等) イ)店舗、事務所 ウ)学校(研修所を含む。) エ)旅館、ホテル オ)その他アからエまでの用途に類する用途 |
・空気調和設備管理 ・給水、給湯設備管理 (貯水槽の維持管理を含む。浄水場の維持管理業務を除く。) ・排水設備管理 (浄化槽の維持管理を含む。下水処理場の維持管理業務を除く。) ・ボイラ設備管理 ・電気設備管理 (電気事業の変電、配電等のみの業務を除く。) ・清掃及び廃棄物処理 ・ねずみ、昆虫等の防除 |
図6:出典)公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター「建築物環境衛生管理技術者 試験について」を元に筆者作成
https://www.jahmec.or.jp/kokka/維持管理に関する実務とは、設備についての運転や保守管理などを行う業務が該当し、修理の専業やアフターサービスとしての巡回サービスなどは対象外となります。
令和3年度の受験者数は9,651人で、合格者数は 1,707人、合格率は17.7%でした。*13
「建築物環境衛生管理技術者」の講習会を受講する
試験に合格しなくても建築物環境衛生管理技術者になる方法があります。
その方法とは、「建築物環境衛生管理技術者講習会」を受講することです。
合計101時間の講義を受講し、講習会を修了した人には「修了証書」が交付され、申請することにより厚生労働大臣から「建築物環境衛生管理技術者免状」が交付されます。*14
受講資格は学歴や実務経験の年数、保有している免許などにより違いがあるため、日本建築衛生管理教育センターの公式サイトで確認をしてください。講習会は年に数回開催され、募集人員は100名です。受講料は108,800円(非課税)で、テキストなど教材費を含んでいます。*15
まとめ
ビル管理法は不特定多数の人が利用する特定建築物を、安全かつ衛生的に管理することを目的とする法律です。
ビルの最高責任者である建築物環境衛生管理技術者は、施設を利用する人が快適かつ衛生的に使えるように、建物を適切な状態で管理します。
それぞれ、法律や制度の趣旨を理解し適切な施設管理にお役立て下さい。
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参考資料
*1 厚生労働省「建築物衛生のページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000132645.html
*2 高知市「特定建築物(建築物衛生法)【R4.4.1更新】」
https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/36/tokuken.html
*3 厚生労働省「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79072000&dataType=0&pageNo=1
*4 厚生労働省「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について」 P1-3
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000876611.pdf
*5 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準等の見直しについて」 P1
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000866659.pdf
*6-9 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/
*10 厚生労働省「建築物環境衛生管理技術者について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei11/index.html
*11 参考)厚生労働省「建築物環境衛生管理技術者について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei11/index.html
*12 参考)(公財)日本建築衛生管理教育センター「建築物環境衛生管理技術者 試験について」
https://www.jahmec.or.jp/kokka/
*13 参考)厚生労働省「第51回建築物環境衛生管理技術者試験の合格発表」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21847.html
*14・15参考)(公財)日本建築衛生管理教育センター「建築物環境衛生管理技術者講習会」
https://www.jahmec.or.jp/koushu/kanrigijutu.html