• 更新日:2023.03.10
  • 作成日:2023.01.12

エレベーター・エスカレーターでの感染防止対策は?今日からできる方法を薬剤師が解説

新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行を機に、私たちの生活スタイルや行動、意識や習慣は大きく変化しました。とりわけ意識の変化は著しく、感染を恐れるあまり、「密」が避けられない場面や他者との接触を避けることが困難な場面に強い嫌悪感や恐怖を覚える人も少なくありません。

特にエレベーターやエスカレーターは、
・不特定多数の人が利用すること
・他者と共有して使用しなければならない部分が多いこと
・密集・密接など「密」になりやすいこと
などの理由から利用に不安を感じる人も多いため、感染予防には格別の配慮が必要です。

では、エレベーターやエスカレーターにおける感染リスクを下げるにはどうすればよいのでしょうか。以下に、エレベーター・エスカレーターでの感染防止に役立つシステムやサービスの例をいくつか紹介します。

■スマートフォンの専用アプリを用いたサービス

ハンズフリーでエレベーターを自動呼び出し。

行き先階を自動登録。

扉の閉じる時間をゆっくりにする。

■非接触対応ボタン

手を近づけるだけで、ボタンに触れずに乗り場ボタン・かごボタンが操作可能。

 乗り場ボタン:(↑・↓)

 かごボタン:(開・閉・B1、1~10、Rなど)

■ウイルス抑制・脱臭機能付きファン

電界・放電空間を形成して、空気中に浮遊するウイルスや菌、花粉などを抑制。PM2.5を除去。

脱臭効果でエレベーターかご内の環境を快適に保つ。

■エレベーターの乗車人数に応じた可変速システム

乗車人数が少ない場合は運航速度をアップして乗車時間を短縮。

エレベーターが無人の場合は運航速度をアップして待ち時間を短縮。

■エレベーター行先予報システム

エントランスで行先階を指定することで、エレベーター内での操作はなし。

行先階ごとに利用者をまとめて運行することで停止階を減らし、乗車時間を短縮。

行先階ごとに利用者を分散させ、エレベーターホールの渋滞や混雑を緩和。

■エスカレーター手すり抗ウイルス・抗菌コーティング

・抗ウイルス・抗菌コーティング膜で手すりの表面をガード。

・コーティングにより清掃にかかる時間・労力を軽減。

・手すりの利用率が高まり、転倒などの事故防止にも役立つ。

*1 *2 *3 *4 *5 *6を参考に筆者作成

もっとも、新たなサービスやシステムの導入にはコストも時間もかかるものです。
そこでこの記事では、新システム導入までの「つなぎ」の期間に取り組むべき感染防止対策を解説します。

今日からできるエレベーター・エスカレーターの感染防止対策

新しいサービスやシステムの導入までにできる感染防止対策には、以下のようなものがあります。

ウイルスや細菌との接触機会を減らす感染防止対策

・手指消毒用アルコールの用意
利用者の不安を解消するために、エスカレーターの乗り降り口付近やエレベーターホールに消毒用アルコールを用意しておくと良いでしょう。
ただし、手指消毒のために「密」になるのは避けなければなりません。
エレベーターホール内にアルコールを設置する場合は、乗り場ボタン付近とエレベーターを降りてすぐ目に付く場所に数ヵ所。エスカレーターの場合は、乗り口の数メートル手前と、降りたときに視界に入る少し離れた場所に消毒用アルコールを設置することをおすすめします。

・ボタン部分に抗菌シートを貼付
エレベーターの乗り場ボタンやエレベーター内のボタンに抗菌シートを貼付するのも、利用者の不安解消に役立つでしょう。
ただし、抗菌シートのみでウイルスなどを完全に除去することはできません。必ず消毒用アルコールなど他の方法と併用するようにしてください。

「密」を防ぐ工夫

・「立ち位置」がわかるマークの貼付
エレベーター内やエレベーターホール、エスカレーターの乗り口手前部分などに「立ち位置」を示すマークを貼付するのは、「密集」「密接」といった「密」を防ぐ手っ取り早い方法の一つといえます。
マークを用意するのが難しい場合は、テープなどで立ち位置を示すだけでも構いません。

ただ、立ち位置が足形などで示されていると、車いす利用者の方は「利用しにくい」と感じることもあるようです*7。
そのため、「立ち位置」を示すマークやテープを貼る際には、車いすやベビーカーを利用している方たちのための「優先スペース」を設けると、より一層喜ばれるでしょう。

・エレベーターの乗車人数の上限を少なくする
ソーシャルディスタンスを確保するためには、エレベーター内の人数は定員の半分程度を目安にするのがよいとされます*8。
エレベーター内に示してある乗車定員を修正するだけではなく、エレベーターホールにも乗車定員を掲示しておくと、トラブルを防ぎやすくなります。

ただし、エレベーターの乗車人数を制限することでエレベーターホール内が「密」になる場合は、無理に上限を変更すべきではありません。
エレベーター内は換気されているため、会話をしない・咳エチケットを守るなどのマナーを徹底すれば、感染リスクが著しく高まることはないからです*8。

今日からできるエレベーター・エスカレーターの感染防止対策例と注意点

■手指からの感染を防ぐ対策

消毒用アルコールを用意する

 注意点:「密」を防ぐため、アルコール設置場所を工夫する必要がある。

ボタン部分に抗菌シートを貼付する

 注意点:ウイルスなどを完全に除去することが難しいため、他の方法と併用が不可欠。

■「密」を防ぐ方法

フットプリントなどで立ち位置を指定

 注意点:車いす利用者などの利用を妨げない配慮が必要。

エレベーターの定員数を減らす

 注意点:エレベーターホールが「密」になる場合は逆効果。


利用者に感染防止を促す方法

エレベーター・エスカレーターでの感染を防止するためには、利用する方の協力も不可欠です。ここからは、ポスターなどで利用者に呼びかけると良い内容を解説します。

ウイルスや細菌との接触機会を減らす呼びかけ

・利き手でボタンや手すりにさわらない
利き手でボタンや手すりに触れてしまうと、無意識のうちに目や口などをさわってしまい、ウイルスや細菌を体内に取り込んでしまうおそれがあります。
そのため、あえて利き手とは逆の手でボタン操作をしたり手すりに摑まったりすることを促すと、ウイルスや細菌との接触機会を減らすことにつながります。
ただし、体の不自由な方についてはこの限りではありません。安全を最優先し、無理のない範囲で利き手での操作を減らすことを呼びかけましょう。

・利用後の手指洗浄や消毒を呼びかける
エレベーターのボタンや壁、エスカレーターの手すりなどに触れたら、手指洗浄や消毒をするように呼びかけましょう。
消毒用アルコールなどの設置場所や洗面スペースの場所を知らせるポスターを掲示するのも有効です。

・マスクの着用を呼びかける
エレベーターホールやエレベーター内、エスカレーター利用時には、可能な限りマスクを着用するように呼びかけましょう。マスクには、感染を防ぐ役割と感染を拡大させない役割の両面があります。
マスクの着用とともに咳エチケットを呼びかけるのもよいでしょう。

・会話を控えるように呼びかける
エレベーターやエスカレーター、あるいはエレベーターホールでの感染を防ぐために、会話を控えるよう呼びかけることも大切です。他の利用者との会話はもちろん、携帯電話での通話も控えるように呼びかけましょう。

「密」を防ぐ呼びかけ

・混雑したエレベーターに無理に乗らないように呼びかける
エレベーターに乗車する人数が増えると、ソーシャルディスタンスが取りにくくなって「密」な状態となります。ソーシャルディスタンスに配慮したエレベーターの乗車定員をエレベーターホールの目に付きやすい場所に掲示し、定員を超える場合は無理に乗り込まないように呼びかけましょう。

・他の利用者との距離を保つように呼びかける
エレベーター内では、他の利用者との距離をある程度、保つように呼びかけてください。また、エスカレーターの場合は、前後数段を空けて乗るとソーシャルディスタンスを維持できます。
なお、感染予防のためには、他者との距離を最低でも1メートル空ける*9とよいとされています。

感染予防に関するポスターの例

引用)三菱電機ビルソリューションズ「ニュースリリース・お知らせ>エレベーター・エスカレーターを安心してご利用いただくために」*10

https://www.meltec.co.jp/press/1196963_966.html

新型コロナウイルスとの共存・共生を視野に入れた感染対策を

2019年に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミック*11は、いまだ終息の兆しが見えません。もっとも発生当初とは異なり、ワクチンや治療薬もありますし、検査手段も充実しています。
しかしながら、予防や治療の手段・検査手段があることと感染防止対策の必要性は別に考えなければなりません。
そして今後は、新型コロナウイルスとの共存・共生を視野に入れた感染対策を行うのが当たり前となっていくでしょう。

もちろん、エレベーターやエスカレーターの感染対策も例外ではありません。withコロナの時代に向けて、今日から感染防止に取り組みましょう。

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この記事の著者

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

参考文献・参考サイト
*1
出所)三菱電機ビルソリューションズ「エレベーター・エスカレーター>技術・機能>スマートフォンサービス」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/technology/12.html

*2
出所)三菱電機ビルソリューションズ「エレベーター・エスカレーター>技術・機能>非接触対応ボタン」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/technology/16.html

*3
出所)三菱電機ビルソリューションズ「エレベーター・エスカレーター>技術・機能>「ヘルスエアー®機能」搭載循環ファン」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/technology/14.html

*4
出所)三菱電機ビルソリューションズ「エレベーター・エスカレーター>技術・機能>スーパー可変速システム」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/technology/01.html

*5
出所)三菱電機ビルソリューションズ「エレベーター・エスカレーター>技術・機能>エレベーター行先予報システム エレ・ナビ」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/technology/02.html

*6
出所)三菱電機ビルソリューションズ「製品・ソリューション>エスカレーターオプション>エスカレーター手すり抗ウイルス・抗菌コーティング」
https://www.meltec.co.jp/products/ev_es/option/es_option/coating.html

*7
出所)国土交通省「政策・仕事>総合政策>バリアフリー>新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」」P.4
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000267.html

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/content/001413748.pdf P.4

*8
出所)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防及び健康管理に関する参考資料一覧>職場における新型コロナウイルス感染症対策のための業種・業態別マニュアル>製造業」P.32
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00226.html
https://www.mhlw.go.jp/content/000786024.pdf P.32

*9
出所)厚生労働省「政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>新型コロナウイルス感染症について>新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

*10
出所)三菱電機ビルソリューションズ「ニュースリリース・お知らせ>エレベーター・エスカレーターを安心してご利用いただくために」
https://www.meltec.co.jp/press/1196963_966.html

*11
出所)国立感染症研究所「コロナウイルスとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html

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