• 更新日:2023.03.10
  • 作成日:2023.03.03

ビル内で警報信号 障がい者や外国人を安全に避難に導くために

ビル内にはガス漏れや火災、地震などが発生した時、危険を知らせる警報装置が設置されています。

火災報知器やサイレンで異常を知らせ、放送設備を使って状況説明や避難指示をするというのが一般的な形です。しかし視覚や聴覚に障がいがある人、あるいは外国人には、警報を察知できなかったり、言葉がわからずにどうしてよいか分からなくなったりする人もいるでしょう。

そこで今回は、障がいのある人や外国人にも安心してビルを使ってもらえるよう、また、安全に避難できるようにするための準備や心構えについて見ていくことにしましょう。

東日本大震災でみられた傾向

NHKによると、2011年の東日本大震災では、障害者手帳を持つ人の死亡率が、そうでない人の死亡率の2倍にのぼっています*1。

また、視覚に障がいがあり避難所へ行ったことがなかったため、近くの高台への経路がわからず、遠くの違う場所に避難してしまったという人もいれば、聴覚に障がいがあるために警報が聞こえず、逃げ遅れかけたという人もいます。
また、発達障がいがある人は情報を整理することが難しく、戸惑ってしまうこともあります。
外国人の場合は、言葉がわからないために日本語での指示だけでは通じないこともあります。

災害はいつ、どこで起きてもおかしくありません。
さまざまな事情を抱える人たちをうまく誘導する方法を、知っておく必要があります。

視覚障がい・盲ろう

まず、視覚障がいや盲ろうの人への対応です。

視覚障がいがある人は、周囲の状況や案内を目で確認できません。よって、何が起きたかを言葉でわかりやすく伝え、避難にあたっては以下の支援が必要です*2。


・声をかける時は本人のそばへ行く。

・場所を説明する時は「ここ」「あそこ」などの曖昧な言葉を使わず、「前」「後ろ」「右」「左」といった具体的な言葉を使う。

・誘導する時は、腕や方につかまってもらい、誘導する人が半歩ほど前を歩く。曲がる方向や段差など、その都度周囲の状況を説明しながら歩く。

また、盲ろうの人の多くは、手のひらに文字を書けば通じます。1文字ずつ、大きめの文字で書いて伝えましょう。

聴覚障がい

聴覚に障がいがある人は、音声でのやりとりが困難です。以下のような支援が必要です*3。


・防災無線などが聞こえずに避難が遅れることがあるので、個別に伝える。

・手話が分からない人もいる点に注意。筆談や身振り、絵や図で説明する、口の形を読み取りやすくするといった工夫が必要。

また、近年では「光」による警報を発する装置が注目されています。聴覚障がい者の場合、警報そのものを認知できないケースが多いためです。

光警報装置とは

火災ベルなどが大音量で警報を発しても聴覚障がいの人には聞こえないため、光の点滅で火災などを警報するのが光警報装置です(図1)。

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図1 光警報装置の設備例

(出所:「光警報装置のおすすめ」日本火災報知機工業会)

https://www.kaho.or.jp/pages/jikaho/docs/poster/booklet-hikari-keihou-201708.pdf p1

普段は使っていない光を天井や壁に灯すことで、異常の発生を伝えるのです(図2)。

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図2 光警報装置の設置イメージ

(出所:「光警報装置のおすすめ」日本火災報知機工業会)

https://www.kaho.or.jp/pages/jikaho/docs/poster/booklet-hikari-keihou-201708.pdf p1


音のみでは聴覚障がい者の83%が「警報を全く認知できなかった」という状況でしたが、音と光を組み合わせた警報に変えることで69%の聴覚障がい者が「警報をはっきりと認知できた」と答えている調査結果もあります*4。

発達障がい

発達障がいの人は、情報をうまく整理することが難しいという場合が多くあります。以下のような支援が必要です*5。


・コミュニケーションが苦手な人もいるため、言葉での意思疎通が難しい場合は、絵や実物を見せたり、筆談を使ったりするのも有効。

・言葉にできなくて困っている様子の場合は、何に困っているのか簡潔に質問する。質問は複雑にせず「はい」「いいえ」で答えられるように工夫する。

・先の予定がわからないことが強いストレスになる人もいる。今後の見通しをわかりやすく伝える。

外国人への危険周知と避難誘導

外国人の場合、言語を理解できないことが安全な避難を妨げてしまいます。

そのために有効なのが、以下のような方法です(図3)。

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図3 緊急時の外国人への対応

(出所:「外国人来訪者や障害者等の安全な避難誘導のために。」消防庁)

https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/items/leaflet01.pdf p2

特に最近では、翻訳機能がついたスマートフォンアプリなどもありますので、積極的に利用するのが良いでしょう。タブレットでのやりとりも良いツールになります。

また、ピクトグラムなどわかりやすく視覚化したものを普段から掲示しておくことも重要です(図4)。

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図4 情報視覚化の一例

(出所:「外国人来訪者や障害者等の安全な避難誘導のために。」消防庁)

https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/items/leaflet01.pdf p4

また、ある程度日本語がわかる人もいますので、簡単な日本語でのやりとりを心がけましょう。以下のフレーズが基本になります*6。 


1)「○○(場所)で火事です」

2)「○○(行動・場所)は危険(あぶない)です」

3)「今の場所にいてください」

4)「エレベーターは使うことができません」

5)「逃げるときは、お知らせします」

6)「今すぐ逃げてください」

7)「私の後について来てください」

8)「この建物は安全です」

9)「すぐに係の人が来ます」

簡潔に表現することが重要です。

事前の防災計画を策定しよう

オフィスビルや公共施設は、多様な人が利用しています。

まず、さまざまな事情を抱える人がいることへの理解を広く周知する必要があります。

そして、避難経路やそれぞれの事情にあった対応方法を事前に決めておくことも重要です。

避難誘導する側がパニックに陥ってしまうと、障がいを持つ人や外国人は不安を増すだけです。
今いちど、自分や自社が使っているビルにどのような装置があるか確かめ、さまざまな事情を想定した計画を立てておくと良いでしょう。

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https://www6.nhk.or.jp/heart-net/special/saigai/disabled/case06/supporter.html

*6
「外国人来訪者や障害者等の安全な避難誘導のために。」消防庁
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/items/leaflet01.pdf p6

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