• 更新日:2023.05.30
  • 作成日:2023.02.14

ビル内で事故が起こった場合、オーナーは責任を負うのか? 法律上の注意点を弁護士が解説

ビル内で事故が起こった場合、オーナーは被害者に対する損害賠償を強いられる可能性があります。不測の事態によって法的責任を問われる事態を避けるため、ビルオーナーの方は、日頃から安全管理に十分ご注意ください。

今回は、ビル内の事故についてオーナーが負う法的責任の根拠、損害賠償額についての考え方、損害賠償のリスクを抑えるための対策などをまとめました。

ビル内での事故につき、オーナーが問われ得る法的責任

ビル内で事故が発生した場合、オーナーは民事責任・刑事責任を問われる可能性があります。

民事責任

民事責任とは、被害者に対して負う損害賠償責任などを指します。ビル内における事故の場合、民事責任の主な根拠は以下のとおりです。

(1)工作物責任

ビルの設置または保存に関する瑕疵(欠陥)が原因で事故が発生した場合、工作物責任が問題となります(民法717条1項)。

工作物責任を負うのは、原則としてビルの占有者です。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした場合は、ビルの所有者(オーナー)が工作物責任を負います。

 

(2)(一般)不法行為責任

事故の原因がビルの設置または保存に関する瑕疵ではない場合でも、オーナーの故意または過失により事故が発生した場合には、被害者に対して(一般)不法行為責任を負います。

 

(3)債務不履行責任

契約関係にある相手方(従業員、委託先の業者など)がビル内で事故の被害に遭った場合、工作物責任や不法行為責任と並んで、契約違反の責任(債務不履行責任)を負う可能性があります。

刑事責任

ビル内での事故により被害者がケガをし、または死亡したケースで、オーナーに事故の過失がある場合には、刑法上の「業務上過失致死傷罪」が成立します(刑法211条前段)。法定刑は「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。

実際にビルオーナーが業務過失致死傷罪で訴追されるケースは稀ですが、被害者が死亡または重篤な障害を負い、かつ過失の程度が甚だしい場合には、起訴されて有罪判決を受けるおそれが否定できません。

ビル内での事故につき、オーナーが支払うべき損害賠償額の考え方

ビル内で発生した事故につき、オーナーが被害者に対して損害賠償責任を負うとしても、すべての損害を賠償する必要があるとは限りません。民法のルールにより、損害賠償の範囲・金額が限定される場合があります。

損害賠償の範囲

工作物責任・(一般)不法行為責任・債務不履行責任のいずれが根拠となる場合でも、損害賠償の範囲については「相当因果関係説」が通説的な考え方となっています。

相当因果関係説とは、以下の2つを両方満たす損害についてのみ、加害者の賠償責任を認めるという考え方です。

(1)加害行為(原因)と損害の間に事実的因果関係※があること

事実的因果関係:「当該原因がなければ損害が発生しなかった」という関係

 

(2)加害行為(原因)によって損害が発生することが、社会通念上相当(≒あり得ると考えるべき)であること

たとえば、ビルの事故に巻き込まれた後で何らかの負傷や疾病を訴えたとしても、それが別の原因によって発生したものであれば、事故と負傷・疾病の間の事実的因果関係(1)が否定されます。

また、事故との間に事実的因果関係がある損害であっても、「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺のように、あまりにも因果関係が遠い場合には、因果関係の相当性(2)が否定される可能性があります。

このように、ビルオーナーが事故についての損害賠償責任を問われた際には、原因と損害の間に相当因果関係がないと反論することが考えられます。

ただし、契約に基づく責任(債務不履行責任)が損害賠償の根拠となっている場合は、契約条項に基づき損害賠償の範囲が変更されることがあるのでご注意ください。

過失相殺について

ビル内での事故につき、被害者側にも何らかの過失がある場合には、過失相殺によって損害賠償額が減額される可能性があります(民法722条2項)。

たとえば、被害者に生じた損害が1,000万円、オーナーの過失が8割、被害者の過失が2割だとします。この場合、過失相殺により800万円の損害賠償のみが認められるという要領です。

特に被害者が、ビルの設備を予想不可能な方法で使用していた際に事故が発生したケースでは、被害者側の過失が認められやすいでしょう。この場合、オーナーは過失相殺に基づく損害賠償の減額を主張できます。

オーナーが委託先業者に損害賠償を請求できる場合もある

委託先業者の責任によってビル内での事故が発生した場合でも、被害者との関係では、オーナーが損害賠償義務を負うケースが多くあります。

しかし、オーナーはこの場合、被害者に対して支払うべき損害賠償額などを、事故の責任がある委託先業者に対して請求できる可能性があります。

ビルの施工不良が原因の場合|施工業者に対する損害賠償請求

ビルの施工不良が原因で事故が発生した場合、その責任は施工業者にある可能性が高いでしょう。この場合、オーナーは施工業者に対して損害賠償を請求できます。

損害賠償請求の根拠は、工事請負契約に基づく契約不適合責任(民法562条以下、559条)などです。施工業者の責任を追及できるかどうかは、工事請負契約の内容を確認して判断する必要があります。

ビルの管理不備が原因の場合|管理業者に対する損害賠償請求

ビルの管理に不備があったことが原因で事故が発生した場合、管理を委託している業者の責任を追及できるかもしれません。責任追及の可否は、やはり管理業者と締結している業務委託契約の内容によります。

いずれにしても、ビル内での事故について委託先業者の責任を追及する際には、事故に関する事実関係と、委託先業者と締結している契約の内容を照らし合わせた検討が必要です。

事故リスクを抑えるために、ビルオーナーがとるべき対策

ビル内での事故をできる限り防ぐためには、設備についての定期的なメンテナンスが欠かせません。特に昇降機など、利用者の安全性に直結する設備については、定期メンテを必ず実施すべきです。

また、ビルの施工や管理などについては、信頼できる業者に委託することが重要です。コスト面だけに捕らわれることなく、安全性の観点から信頼できる業者を見極めてください。

まとめ

ビル内で事故が発生した場合、オーナーは民事・刑事上の法的責任を負うリスクがあります。事故の可能性をできる限り低くするためにも、日頃から設備のメンテナンスなどを怠らないようにしてください。

ビル内での事故につき、被害者から損害賠償を請求された場合は、事実の調査と法的な分析を行ったうえで対応方針を決めましょう。
因果関係や過失相殺の観点から、損害賠償の免責または減額が認められることもあります。また、委託先業者の責任で事故が発生したと思われる場合には、その業者に対する損害賠償請求も検討すべきです。

必要に応じて弁護士にご相談のうえ、損害を最小限に食い止められるようにご対応ください。

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この記事の著者

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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